青葉哲郎のマーケティングブログ

NETFLIX「天才の頭の中<ビル・ゲイツを読解する>」を見て 〜マイクロソフトの第一線から退いたのちの歩み

サイコスの青葉でございます。

皆さん、2019年にNETFLIXで配信されたドキュメンタリー番組「天才の頭の中<ビル・ゲイツを読解する>」はご覧になりましたか?今回は、そちらの番組をもとにブログを進めたいと思います。

私がマイクロソフトで働き始めたのが1995年。当時のビル・ゲイツの印象は、「おたく・スマート・短気・類まれなる記憶力・読書家」といったもので、独占禁止法などの問題も抱えていたため、いまメディアで目にする温和なイメージからは程遠いものでした。
しかし、ビジネスマンとして深く尊敬しており、彼がマイクロソフトを引退してからも、その後の取り組みを気にしてきました。

好きな食べ物は、ハンバーガーとコカ・コーラ。この世で一番恐ろしいことは、「自分の脳が止まること」だというビル・ゲイツの、いま頭の中にあることを読解していきたいと思います。

◆少年期から天才の頭角をあらわす

ビル・ゲイツは、1955年10月28日、ワシントン州シアトルに生まれました。父親は弁護士で、母親は銀行家の娘で元教師という、比較的裕福な家庭で育ちます。母親が社会貢献活動に積極的な人で、小さい頃から地域の活動に連れられていました。

参考:学生時代のビル・ゲイツ https://www.biography.com/news/bill-gates-biography-facts

ビルは少年の頃から、記憶力が抜群で数学に強く、競争心がとても旺盛。そんな少年が中学生の時、コンピューター(の端末装置)に出会います。気力・集中力・感性・知性など、他の生徒とは際立って違っていたビルはコンピューターに没頭し、プログラムを書き、収入まで得てしまいます。当時、なんと弱冠15歳。その時出会ったのが、のちの共同創立者となる「ポール・アレン」です。

参考:ポール・アレン(左) https://www.biography.com/news/bill-gates-biography-facts

そして、1973年、ビルはハーバード大学に入学。ポールは会社に就職し、プログラミングの仕事を始めます。この時から、2人は将来、会社を設立することについて語り合っていたそうです。

◆マイクロソフト創業から、財団設立まで

1975年、MITS社からインテルの8080チップを使ったパーソナルコンピューターの先駆けである「アルテア8800」が発売されると、これを見たビルとポールはチャンスだと確信。2人は寝食を忘れ、ひたすらプログラミングを続けます。そして開始から8週間後、Altair8800用の「BASICインタプリタ」を完成させ、すぐさまMITS社へこのBASICを売り込みます。その後、2人はついに「マイクロソフト」を設立させたのです。

参考:野心あふれる若い頃のビル・ゲイツ https://www.biography.com/news/bill-gates-biography-facts

ビルはこの時、ハーバード大学を中退します。現在の穏やかな人物像とは違い、当時は野心むき出しでお金儲けに貪欲な人物でした。社員を集め、ホワイトボードにこれからマイクロソフトがどうやって世界を乗っ取っていくかというビジョンを熱く語っていたようです。社員たちは、彼のリーダーとしての資質に賭け、懸命に働きました。その後、我々のよく知るソフトウェア「Windows95」「Windows98」や、ウェブブラウザ「Internet Explorer」で一気に飛躍していきます。

妻である「メリンダ・ゲイツ」との出会いはマイクロソフト社内でした。メリンダはエンジニアで、二人は社内恋愛。1994年に結婚し、子供を授かりますが、益々忙しくなるビルに、メリンダは寂しさを隠せなかったといいます。メリンダを大切に思うビルは、2008年6月にマイクロソフトでの仕事の第一線を退き、「ビル&メリンダ・ゲイツ財団」への活動を重視すると発表。この財団では、メリンダとビルは完璧な平等を保っているのだそうです。

参考:メリンダ・ゲイツ(右) https://www.biography.com/news/bill-gates-biography-facts

マイクロソフトにおいては、会長職を経たのち、2014年から技術担当アドバイザーとなっています。また、2019年には、資産額が1000億ドル(約11.2兆円)突破したとされており、世界2位の総資産額だと言われています。

◆現在のビル・ゲイツの頭の中 <その1 〜途上国へのトイレ普及

マイクロソフト引退前から、世界最大の「ゲイツ財団」を運営していたビルですが、そこではすでに50億ドルもの支出をしており、その取り組みは多岐に渡ります。それではこれから、現在ビルが主に力を入れる3つの取り組みをご紹介したいと思います。まず1つめが、「途上国へのトイレ普及」。

きっかけは、ビルが「第三世界では水で死に至る」という記事を読んだことから始まります。途上国では汚染された水のせいで下痢になり、人々が亡くなっているというのです。下痢で亡くなるなんて先進国ではあり得ないことですが、世界的には毎年、5歳未満の子どもが52万5,000人ほど亡くなっています。

しかし下痢の多くは、飲み水の安全や、十分な上下水道の衛生環境によって防ぐことができます。そこでビルは、途上国でサステイナブルな下水システムを構築できないか考え、そして手を組んだのが、シアトルにあるエンジニアリング会社「Janicki Bioenergy(ジャニッキ・バイオエナジー)」。この会社が「Omniprocessor(オムニプロセッサー)」という下水装置を開発します。

参考:Omniprocessor(オムニプロセッサー) https://en.wikipedia.org/wiki/Omni_Processor

この装置は1000度の超高温で排泄物を焼却処理し、水と電力を作り出すことができるという優れもの。しかも焼却時の熱を利用した蒸気エンジンが装置自体の動力源になるのだそうです。ビルは「次世代モデルはさらに先進的で、10万人の排泄物から8万6000リットルの水と250キロワットの電力を生み出すことができる」と説明します。

参考:「オムニプロセッサー」で精製された飲料水を飲むビル・ゲイツ GatesNotes.com

ビルは自らのブログに、排泄物から作られた水をおいしそうに飲み干す映像を公開。「ベルトコンベヤーに乗った排泄物の山が巨大な瓶に落ちていくのが見えた。それらは機械の中を通り加熱処理され、数分後、私は1杯のおいしい水を味わった。このプロセッサーは人間の排泄物を、市場での価値を持つ商品に変える。これは『捨てる神あれば、拾う神あり』ということわざの究極の実現だ」と綴っています。

◆現在のビル・ゲイツの頭の中 <その2 〜ポリオ撲滅

ゲイツ財団がポリオ撲滅に動き出したのが2002年。その時点で、複数の機関がすでに数億ドルを支出していましたが、あまり進展が見られずにいました。

現在ポリオが常在している国は、アフガニスタン、パキスタン、ナイジェリアの3カ国。これら3カ国では、紛争や貧困といった政治・経済・社会的なことが原因となって、ワクチン接種を妨げています。

そこでビルは、成功率を高めるために限界以上の予算を投入することを決めました。予算チームは2億ドル求めたのに対し、ビルは4億ドルの投入を決めます。

しかし、それでも問題がありました。なんとナイジェリアのある集落が、完璧に見落とされていたのです。ナイジェリア北部の最新の地図は1945年に作成されたもので、しかも手書き。ワクチンは需要の高い場所に送る必要があります。最大限の効率化を目指したいビルは、正確な地図が必要だと考え、高解像度の衛星画像とアルゴリズムと演算能力で、ナイジェリアの正確な地図を作成します。そしてようやく国全体がみえたのです。

参考:ナイジェリア地図 (NETFLIX「天才の頭の中」より)

その結果、境界地区の集落の見落としが判明。この地図をもとに、感染率の高い地域を優先させ、効率アップを追求していきました。また、低感染でなく撲滅にこだわるビルは、大量のデータ用いて定量的に分析。予防接種率や人口変動を分析し、医師の送り先を細やかに選定していくことで、感染者数に大きな変化をもたらしました。そして、2008年の発生件数は798件だったのが、2009年に388件、2010年には21件となったのです。

参考:ポリオの現状
1988年以来、ポリオ症例数は全世界で99.9%減りました。現在、野生型ポリオウイルスの常在国はわずか3カ国となっています。
https://www.endpolio.org/ja

ポリオの問題は医療的な側面だけでなく、政治的な問題も絡んでいることから、根絶が難しいと言われています。しかしビルは、「新しいアイデアを生み出し、教訓を学び、新しい状況に適応していってこそ、ポリオをゼロにできると確信しています」と言い、今日も根絶に向かってただひたすら進みます。

◆現在のビル・ゲイツの頭の中 <その3 〜原子力による温暖化防止

さて、話は途上国から大きく変わりますが、ビルが原子力に深く関わっていることをご存じでしょうか。「地球温暖化を防止する取り組みにおいて原子力は理想的だ」と指摘し、彼らしい合理性で、原子力が持つ可能性に注目しています。
「原子力だけが24時間利用可能であるとともに、炭素を発生せず規模の拡張縮小が可能なエネルギー源である。現時点で問題となっている事故の発生リスクも、技術革新によって解決できる」と説明しており、「温暖化を食い止めるため、世界は数多くの解決策に取り組む必要があるが、先進的原子炉もその1つである」と強調します。

そして、彼が出資する原子力開発ベンチャー企業のテラパワー社では、第4世代の原子炉技術といわれる「進行波炉(TWR)」を開発中。「その設計思想はきわめてユニークなもので、基本的には運転に人間の関与が必要ない」と言います。劣化ウランを燃料に使うTWRは低コストで安全性が高く、核廃棄物も減らせるという触れ込みで、温暖化を人類の危機と捉えるビルはTWRを高く評価し、資金調達に手を貸すなどテラパワーを積極的に支援しています。

このTWRを実用化するにあたり、重要な役回りを演じていたのが中国でしたが、トランプ政権の米中貿易戦争によって状況は一変してしまい、話は一旦保留状態に。それでもビルは、このプロジェクトを諦めません。「2050年にCO2の排出量をゼロにする」と宣言しています。

ちなみに、私がマイクロソフトで働いている当時、ビルはすでにエネルギーの世界にも革命が起きると話していました。どういう革命かというと、自宅に原子力発電所があるようなイメージです。エネルギーの送電ロスが大きいので、各家庭で発電した方が良いという考えでした。コンピューターもそうでしたが、「1台の大きなホストコンピューターに全員がアクセスしていたものが、各個人が所有するようになった。それと同じようなことがエネルギーの世界でも起こる」と言っていたのを思い出します。

◆まとめ

ビル&メリンダ・ゲイツ財団は2020年2月5日、新型コロナウイルスの検出・隔離・治療の改善、危険な状態にある人口の保護、ワクチンの開発を支援するための世界的な取り組みに対して、最大1億ドルの寄付金を直ちに用意すると発表しました。これほど迅速に多額の寄付ができる財団がどれほどあるでしょうか。しかしビルは、社会を感動させたいのではなく、最適化したいのだと言います。

また、ビルは究極の楽天家であり、どんな問題も解決できると信じています。しかし、直面する問題があることも事実。

例えば、

・途上国へのトイレ普及 → 有望だけど高額
・ポリオ撲滅 → 数十億ドルかけたが2019年は発生率がアップした
・原子力による温暖化防止 → 中国と破談、アメリカでの原子力普及は風向きが厳しい

こうした難しい問題に直面した際、ビルは決まって「Work harder」と言うのだそうです。彼をよく知る人物は、この手加減しない頑固さが彼の長所でもあり短所でもあると言います。

今回のブログでは、NETFLIX「天才の頭の中<ビル・ゲイツを読解する>」をもとに、ビルが現在取り組んでいることを紹介しつつ、彼の頭の中に迫りました。ビルが「Work harder」した先にどんな未来が待っているのか。私も楽しみにしつつ、引き続き彼の活動を追いかけていきたい次第です。

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